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静岡家庭裁判所 昭和54年(家イ)67号 命令 1979年2月09日

申立人 石井和子

相手方 石井正夫

事件本人 石井浩一

主文

一  相手方は、この処分命令書が到達した日から三日以内に、申立人に対して、事件本人を申立人の肩書住居に同行して引渡さなければならない。

二  相手方において、この処分命令に従わないときは、家事審判法所定の過料に処せられる。

理由

本件および当庁昭和五四年(日)第一一号、当庁昭和五三年(家イ)第三五一号各事件記録ならびに当庁調査官の調査の結果によると、(1)申立人と相手方は法律上の夫婦であり、その間に長男たる事件本人(以下、長男という)および長女たる美保があり、相手方住居にその両親と同居していたところ、夫婦間に不和を生じ申立人は昭和五三年六月下旬長男および長女を伴つて相手方住居を出て申立人肩書地の実家に帰り、父母と生活を共にしているが、相手方において長男、長女の生活費を負担しないため、当庁に婚姻費用分担の申立をなし現にその調停が続けられている。(2)長男は昭和五三年一〇月一日より市立○○○保育園に通つているが、もともとぜんそくの持病があるため、近隣の医院に三日おきに通い治療、投薬を受けている。(3)ところが、昭和五四年二月三日午前一一時三〇分頃、保育園より長男の健康状態がよくないとの連絡があり、申立人が長男を引取るため上記保育園に赴き、担当の保母に事情を聞いていたところ、突然相手方が現われ、申立人に無断で、しかもその制止を排し強引に長男を自動車に乗せて連れ去り、以後相手方肩書住居に居住させていること、が認められる。

申立人と相手方は法律上の夫婦であり、いずれも長男らの親権者ではあるが、本件当事者間におけるように夫婦間に不和を生じ相当長期間にわたつて別居状態にあり、しかも、申立人が別居以来長男らの監護養育にあたつているときは、申立人が子の監護養育に関する権利義務を有する仮定的な監護者たる地位にあり、その監護養育の実施については、第三者はもとより他方の親権者たる相手方もこれを妨げるような行為をすることは許されない。してみれば、相手方は長男の親権者であつても、仮定的な監護者たる申立人の承諾なくして長男らを引取ることは許されず、前記のように相手方が申立人の制止を排し実力で長男を連れ去つたことは、申立人の監護権に対する侵害にほかならず、相手方としてはこのような不法な状態を速やかに是正し、原状に回復すべき義務があるといわねばならない。

今後本件調停において当事者のいずれが子の確定的な監護者になるものと定められ、その他の子の監護に関する処分が定められるかは別として、以上に説示したほか当裁判所調査官の調査の結果によると、さしあたり長男が申立人のもとで生活するのが長男の福祉・利益に合致するとみられるので、相手方は申立人に対して長男を引渡すのが相当であり、しかも、それが本調停のため必要であるものと認め、家事審判規則第一三三条第一項、第一四二条に則り主文第一項のとおり調停前の処分として命令し、また同規則第一三三条第三項、第一四二条に則り主文第二項のとおり告知する。

(家事審判官 岡垣学)

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